自然に生き世界広がる。

季節、環境に合わせ自給自足モットー

 

 読売新聞 1994.1.13

白く輝く常念岳のふもと。カラマツ林に囲まれて、ヤギやアヒルがのんびり遊ぶ。ヨーロッパの片田舎を思わせる風景。白壁のペンション「舎爐夢ヒュッテ(シャロム)」は、ここで自給自足をモットーにした、エコロジー生活を発信している。

「効率を求めた現代社会は、細かく分業化されて膨れ上がり、お金を媒体にして何とかつながっている不安定な状態。社会を再び自分の周りに集約することで、お金ではなく、人のつながりが結ぶ生活をしたい」。オーナーの臼井健二さん(44)が、こんな思いで穂高町豊里にヒュッテを作ったのは、十四年前。

同町に生まれ育った。東京でのサラリーマン時代に感じた「知らない人の作った物を売る」ことへの違和感がきっかけだった。「自分の手で作る」のが原則。建物は山仲間の協力で、3年がかりで建てた。壁を塗り、床暖房の配管をして、洗面台を取り付ける。周囲からはお金を出せばプロがきれいにやってくれるのにと言われたが、「作ることは楽しい。それを他人に任せて、自分は、そのためのお金を苦労して稼ぐなんて変でしょう」。

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隣接した畑で野菜を作る、もちろん無農薬。人間の残飯は動物のエサになり、そのフンは再び畑へ。自然のサイクルが回る。家具の材料は木やツル。林の中にいくらでもある。「自然は、すごいマーケット」と笑う。暖房のマキは、間伐材だ。約20人のゲストが泊まれる。少しずつ形作り、手を加え続ける。

名前の「シャロム」は、ヘブライ語で「平和」の意味という。派手な宣伝はしない。口コミで存在を知った人たちが、全国から宿を訪れる。アトピーの子供を抱えた母親、環境や食の問題に取り組む人やサークル・・・。

早朝のヨーガ。畑で「きょう食べる物」を収穫する。工作室で家具を作り、カゴを編み、吹き抜けのホールの本を読む、掘りこたつで、妻の朋子さんも交え、食や病気のことから、生き方、出産まで、話し込む夜もある。

「自分がすべてをやることで、分業化されて、肥大化した社会が自分の周りにまとまってくる。(社会を)縮小することで、逆に自分の中の世界が拡大した」と振り返る。

臼井さんは今、農業に燃えている。「1粒の米をまくと、1年で3000粒になる。貯金なんて比じゃないんですよ。」シンプルに、ナチュラルに。伝えたいそんな生活は、自然の力への驚きに満ちている。(藤吉恭子)

 

◇メモシャロムヒュッテでは「その土地で、その季節に取れたものを、丸こと」食べるというシンプルなもの。食卓を支えるのは、朋子さんだ。たとえば、ある日のメニューは、そば粉のスープ、レンコンのハンバーグにカブのパイ、イワナの薫製、リンゴのムース、玄米ご飯に玄米コーヒーなど。自家製の野菜を材料に、朋子さんが工夫を重ねた成果だ。自然食でありながらグルメをうならせる味だ。「教えてほしい」という人も多く、クッキングノートというレシピ集を作っているので分けてもらえる。

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