自給自足のエコロジーライフを通じて

            皆さんをお世話したい

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信州北アルプスの山麓 安曇野に、私の宿がある。落葉松林を背に安曇野を見渡せる林の端にある20名程収容できる土蔵を思わせる白壁の建物で、どこかヨ−ロッパの片田舎にあるような感じでもある。敷地内には、毎年作り足していった建物、今はニワトリ10羽、ヤギ、アヒルがすんでいる納屋、万能盤のある工作室、工具室、バイク自転車置場、そして犬舎も‥‥。

自活のための畑は ペンションの食事に供される。近くには山や林もあり、春の摘み草の時期や秋には取り切れないほどの野草が手に入り、周辺がまさにス−パ−マ−ケットの趣、自然のありがたさに頭が下がる。

車で10分くらいの所に碌山美術館やワサビ畑、少し足を伸ばせば美ケ原や上高地、白馬黒四ダムと魅力のあるロケ−ション。

安曇野は登山基地でもあり、ここから4〜5時間で登れる常念岳や燕岳、蝶ヶ岳からは槍が岳をはじめ穂高の山々が見渡せる。私にとっては、山小屋の小屋番をして五シ−ズンを過ごした思い出の地でもある。雲海の上に登る朝日、小さく可憐な花、そして何よりも自然の厳しさ、偉大さ、太陽の温もりの暖かさなど忘れられない。

山を降りて、3年の建設期間を経て今年で20年、宿をオ−プンして18年目となる。宿を始めた動機は少しでも自給自足に近い生活がしたかったからである。

ここ2〜3年、冬の間三カ月程アジアを旅する中で、忘れがちな旅人の心や自然の大切さに気づくと共に、豊富な物質生活は人間を決して幸せにはしないと思っている。

社会が効率至上主義のもと専業分業化していく中で、社会も地域も経済も拡大肥大化しており、物が溢れ人間性も失われ、人が歯車化されていく。その歪みの中で我々は生きているように思う。専業分業化の社会をつなぐものがお金であり、大変お金のかかる時代に我々は生きている。ほんとうはもっともっとシンプルで自由で、時間に縛られることなく豊かに暮らせたように思う。

そんな中で肥大化した社会を縮小するとともに自発的簡素さと農的な暮らしが現代を救いうるのではないかと思う。また自給自足の可能な小規模経営の小さな宿はまた時代のニ−ズにあっているとも言える。

私自身お金がなかったので、仲間達に呼びかけて資金を調達した。1口5万円の会員を募り、2500万が集まった。それを元手に自己資金とで宿の建設に取りかかった。もちろんごく一部の専門家を除いて、自分たちで作ることになった。木の切りだし、穴掘り、製材、大工仕事、配管、床暖房、壁塗り、塗装、家具作り、‥‥‥3年を要したが、手応えのある建物を作ることができた。なによりも自ら作り出す楽しみ、建設に関わるいろいろな仕事はどれを取っても大変な仕事だったけれども、多くの人の協力を得て夢を形にする事ができた。

自らが汗して食べ物を得、自然に帰らないものは使わない。生ごみはニワトリが食べ、ヤギが乳を出し、庭の草を食べ、堆肥は畑に入れて野菜ができる。土をこね 家を建てて家具を作り、地球に優しいエコロジ−ライフが実践できる。

シンプルな生活は時間を生みまた楽しくもある。そんな生活から行き着いたところが玄米自然食。今は洋風にアレンジしたコ−ス料理をお出ししている。以前から冬にレタスやトマトなどの夏野菜を食卓に供することに疑問を持っていたので、この際旬以外のものは使わないようにした。野菜には体を暖める野菜と冷やす野菜があることも学んだ。冬には温野菜のサラダが食卓に上る。大根、ニンジン、ゴボウ、白菜、‥‥‥体を暖める野菜のサラダ。これは宿泊の方に評判が良い。主食は玄米で完全無農薬、地元塩尻産のものを使っている。昨年からは二反歩の米作りを自然農法でチャレンジしている。朝食は国内産全粒粉の自家製天然酵母パン。玄米と共にこの天然酵母パンはすこぶるおいしい。ファイバ−ドリンクを飲まなくても、毎日座ると同時に太いバナナ2本くらい出てスッキリ。「ウンこれが健康のしるしなのかも知れん」と毎日個室でニンマリするこの頃である。

今アメリカでは高蛋白高エネルギ−の食事を日本風の食事に変えようと努力しているとのこと。我々も欧米風の食事を考え直さなければならない時に来ているように思う。この頃グルメブ−ムで食を扱うテレビ番組も多くなった。それだけ食に関心を持っている証拠であり、それはそれでとても良いことだと思う。その半面、見た目をよくする人工着色料、本物でない味を作り出す食品添加物、フレイバ−、大量生産を可能にする防腐剤、旬を無視した野菜や果物、インスタント食品、自然のサイクルから離れた食べ物、今私たちは百種以上10グラムの異物を毎日食べているのだそうだ。進む食卓汚染の恐怖と共にアレルギ−や奇形児出産 病気も増えている。最近、健康や食事に関心のある方やグルメの方に、玄米自然食の人が非常に多くなっている。健やかに旬を食する玄米食は、シンプルだけれども生命力を高め、素材の甘さ、旨味を生かしたナチュラルで健康的な食事である。またヘルシ−なダイエット食としても注目されている。素朴で安全な郷土食はまたとてもおいしくもあるのです。

環境破壊の問題、エネルギ−、酸性雨、フロン、原発、etc。私たちはそろそろ生き方を変えなければいけない時代に来ているように思う。効率だけでなく、その後ろに隠れている問題も見つめていかなければならない。そして使い捨ての循環の無い生活を改めない限り問題は山積し人間も地球の癌細胞でしか有り得ない。そして第二の地球は買えないのである。

そんな意味でシンプルな農的田舎暮らしは21世紀に望まれる生活でもあるように思う。経済を肥大化していくよりも規模を小さくしていく自然循環のある自給自足的な生活は、資源を無駄遣いしない公害も出さない生活を可能にする。

拡大から縮小に、我々は再び大地に還らねばならないだろう。

私の宿は、ある時は図書館であり、ギャラリ−であり、音楽ホ−ルであり、公民館であり、料理やヨ−ガ教室でもあり、文化センタ−でもある。百姓も生産加工もし、販売もする。細分化された社会を小さな宿に集めて、手の温もりの中で生活したい。そしてシンプルな生活は無駄を省き、体にも心にも良く、人を暖かくしてくれる。

そんな自然にかなった田舎暮らしを通じて皆さんをお世話できたらとも思っている。また現代人が忘れかけている何かを見つけだせたらとも思う。

         舎爐夢ヒュッテ        臼井健二 

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