自然食レストラン食べある記 

長野県安曇野 舎爐夢ヒュッテ

コンパ21 1995.

マクロビオティックに理解があり、玄米菜食料理を出しこくれる信州のペンションとして、すでに名高い存在。我々にとっては、それがなによりうれしいが、実際に訪れてみると、周辺環境や建物やオーナーの、骨太かつきめ細やかな自然味あふれる魅力にまず圧倒されてしまい、お目当ての料理は、そこにしっくりと馴染んで、ごくごくさりげないものに感じられてしまうほどだった。

安曇野のカラマツ林を抜けると、もうそこは別世界だ。小さな看板を頼りに、小道を行くと、急に視界が開けて、おとぎの国に来たような錯覚にとらわれる。石積みの基礎に白壁木造のどっしりとした建物。そばでは、芝生の上を犬の親子が駆け回り、山羊が草を食んでいる。その向こうこは、広大な平原。自然農法で耕された野菜畑や麦畑も見える。

手作りブランコの揺れるテラスを通って、中に入ると、暖炉のあるリビングルームには、壁一杯に書籍や絵本がびっしり。居心地のよさにボーッとしていたら、奥さんがお茶を出してくださった。絶妙のタイミングだ。

取材の日は、ちょうどファッション雑誌のグラビア撮影が行なわれていた。ヨーロッパの片田舎のようなロケーションが定評なのだそうだ。そこへ、北アルプス登山を終えたグループが、日に焼けた顔でリュックを担ぎながら玄関に入ってきた。元は山小屋の支配人だったオーナー、臼井健二さんを慕って、登山客の常連も多いらしい。

この建物自体、自給自足が夢だという臼井さんが3年もの年月をかけて山の仲間と一緒に、製材から家具にいたる大部分を納得いくまでコツコツと手作りした山の生活の結晶なのだ。手作りの温かみは、部屋のコンセントカバーや漆喰の塗り壁、表示板など、建物のすみずみにまで行き渡っており、ここへ来る人の心を和ましてくれる。

本日の夕食メニューは、アンズのお酒に、ふだん草のスープ、かぶと豆腐のパイ、スモークサーモンのサラダ、大根のフライ、玄米ご飯、野いちごのゼリー、玄米コーヒー。

食材のほとんどが、自家農園(毎朝の農作業を宿泊客も手伝わしてもらえる)や周辺の森で収穫されたものだから当たり前、とはわかっていても、大地と直結したそのとびきり新鮮な美味しさには感動してしまう。もちろん、調味料はどれもこだわりの本物ばかり。事前にリクエストすれば、アトピーや完全菜食にも対応してもらえる。また、一般向けには、マクロビオティックでアレンジされたダイエットコースもあって楽しい。

料理の作り方を知りたい人のためには、リビングルームに定番レシピのファイルがあるし、レシピブックの販売もしている。料理教室やヨガ教室もある。夜には、宿泊客の親睦を兼ねたスライドタイムで、安曇野周辺の観光ガイドもしてもらえる。まさに至れりつくせりのホスピタリティー。充実感をたっぷり味わうことができる。

体調を崩した人には、近くの温泉や、穂高養生園(日本随一のホリスティックな養生施設)を紹介してもらえるのもうれしい。これだけ充実していたら、一泊では惜しい感じと同じことを思う人は、やはり多いようで、連泊する人やリピーター、合宿に使う人、またはスタッフになってしまう人もかなりいるらしい。

思わず「帰りたくない…」とつぶやいてしまった。わざわざでもでかけてみることをお薦めしたいペンションだ。(取材・枇杷友美樹)

★宿泊費一泊二食付9000円★定員20名★休館期間冬期約3ヵ月

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