安曇野便り NO.8 (2000年11月)
変えたい!支えたい!守りたい!
            長野県南安曇郡堀金村 稲角 尚子

秋はずんずん深まって、裏山のカラマツ林は燃えるような黄色です。「冬の凋落
を前にして、一時に燃え上がるこの生命力」と東山魁夷が表現した「行く秋」の
、まるで絵画の世界のような風景。すぐ近くのリンゴ園では真っ赤に色づいたリ
ンゴ(フジ)がたわわに実り、ボチボチ収穫が始まりました。栗や柿拾いに追わ
れたり、松茸山を持ってる大家さんから国産松茸(!!!)を頂いたり・・・こ
んな「いのち」の存在を意識するような生活にあこがれてはいたけれど、本当に
実現するなんて1年前は想像もしてませんでした。先週、大家さんに教わりながら
初めて!たくあん漬けに挑戦しました。もうじき野沢菜や白菜を漬ける頃、こち
らは本格的な冬に突入します。
その冬の到来を前にして、10月にキノコ狩りやスガレ追いを楽しむ人たちがいま
す。松茸は山を持ってるごく限定された人たちだけが国盗り合戦のように必死に
やるもののようですが、それ以外の雑キノコと呼ばれるキノコ採りを楽しむ人は
多いようです。私たちも大家さんに教えてもらって、コムソウダケ(ショウゲン
ジ)、ジコボウ(ハナイグチ)などのキノコを見分けられるようになりました。
たくさん採れたコムソウダケはその日のうちに洗わずにゆがいて、一昼夜かけて
水を流して泥を落としてから塩漬けにして保存する、なんてことも教えてもらい
ました。裏の林ではスガレ(クロスズメバチ)の巣を丸ごと採ってきて巣箱に入
れ、しばらく飼育して巨大になった巣の中から幼虫を取り出して食べる人もいま
す。私たちも5層にもなっている大きな巣を頂き、ピンセットでつまみ出した幼虫
をフライパンで炒って塩を振っただけで食べてみました。これが抜群にうまい。
巣を取り出す時に煙で失神させておいた成虫の方も、生き返る前にゆがいて油で
炒めて砂糖醤油で味付けしておくといいよと教わってやってみました。成虫の方
は口の中で羽根がちょっと気になるけれど、香ばしくってビールのつまみに結構
イケます。
大人たちの趣味がゴルフや麻雀ではなく、キノコ狩りやスガレ追いに夢中になっ
ている、そんなところがまだあったんですね。自然を知っているからこその野遊
び。キノコやスガレのことを子どもの目の輝きそのままにいきいきと語る大人た
ちを見るにつけ、私は豊かな生活って何だろうと考えさせられます。初めてうち
に集荷にきたクリーニング屋さんが「イヤイヤイヤイヤ!ここはまたいいとこだ
なぁ。こんな見晴らしのいいとこがあっただねーッ。おら知らなかっただ。イヤ
イヤイヤイヤ、美ケ原は目の前だし、高ボッチも見えるし、アッ八ヶ岳も見える
じゃん」と言いながら庭じゅうを駆け回り、次の日にはカメラを携えてやってき
ました。アマチュアカメラマンなんだそうです。「今度はここで絵を描いてもい
いかい?」もちろんいいけど仕事はいいの?

地元紙を読むといろんな人がいろんな会をたち上げてそれぞれにいろんな活動を
している記事に出会います。私が興味を持った中で、名前で活動内容がわかるも
のをほんの少しだけ拾い出してみても「森の散歩と四季の野草を摘む会」「生と
死を語る会」「ナチュラリストクラブ」「むしの会」「自然農での田んぼ作りと
野草を食べる会」「ネンキン(粘菌)友の会」「ガキ大将の会」「戦争を考え語
る会」「基層文化を映像で見る会」「ネイチャーゲームの会」「そば打ち研究会
」「地球温暖化防止へ行動する信州気候フォーラム」「『日の丸・君が代・元号
』はいらない!!長野県連絡会」などなど数え切れない。何回かこの中でもご紹
介した穂高町で自然食のペンションをやってる臼井さんなど、ご夫婦で「自然農
学習会」「地域通貨勉強会」「あずみのシュタイナー学習会」「ヴェジタリアン
料理会」「満月の会(満月の夜に月を愛でながら火を炊いてお酒を飲みながらお
しゃべりする)」「カントリーウォーク」「お散歩の会」「ものがたり文化の会
」「アトピッ子の会」「ヨーガの会」などをやってるもんね。要するに、信州人
は興味を持ったら何でも「やっちゃおうよ!」「どうせなら楽しくやろうぜ!」
のノリみたい。どこの本屋にも「信州」のことを扱った書籍ばかりを集めたコー
ナーが必ずあって、その中に「長野県市民活動ガイド」と副題のついた「ワンス
テップ」という本(川辺書房 ¥1400)を見つけて私は仰天しました。県内140団
体の市民活動を紹介しているという本なのですが、実際には、もっともっと10倍
以上はありそう。この本の帯には「変えたい!支えたい!守りたい!」と書いて
ありました。

そんな信州の大人たちですから、子どもたちが楽しめるいろんな企画が学校外に
もあちこちにあります。社会人のサッカーチームが小中学生を対象に無料の指導
教室をすることがあれば、信州ワシタカ類渡り調査研究グループが水辺の生き物
を観察して、干潟の自然を考えようという集いを開いたりもします。大人対象の
「尋常浅間学校」(永六輔校長)を開いている浅間温泉の神宮寺は有名だけれど
、他のお寺の中にも夏休みに一泊で「子ども禅のつどい」とか「星と焼き肉の夕
べ」とかをやって、お寺に親しんでもらおうというところがあります。公民館で
戦争を考え語る会が企画され、体験談やすいとんの会食をしたところもあれば、
手作りのさおで川釣りしようという講座を開くところもあります。エベレスト基
金支援として北インド古典音楽のチャリティーコンサートがあるかと思えば、サ
イトウキネンオーケストラのメンバーが小中学生対象の指導教室を開くという記
事にも出会います。こんな具合なので、教職員による劇団がミュージカルをやる
という記事を見ても、私も次第に驚かなくなってきました。
もちろん、公的な施設やいろんな美術館なども子ども向けの企画をいろいろやっ
てるし、ホント暇さえあればイロイロあるよ(あいにく、わが家の子どもたちは
今年は畑仕事でそれどころではなかった)。
学校の週休2日完全実施を目指して「地域に子どもの受け皿を」なんて、香川でも
さんざん聞かされたけれど、それが上から下へのかけ声で子ども会やPTAの役員だ
けが動員されてやらされるのではなく、地域の大人たちが得意な分野で勝手に子
どもにも呼びかけている・・信州はそんな感じです。

うちの小6の息子は今年はマラソンとドッヂボールに燃えていました。リンゴの花
が咲く5月に隣の三郷村でアップルマラソンというのがあって、お気楽に初めて5
・走りました。あとからこの大会には東京や名古屋、静岡などから○○ランニン
グクラブなどの子が参加していたと聞いて急に発奮したようです。そしたらもう
、秋になって毎月のように大町アルプスマラソンだの松本アルプスハーフマラソ
ンだの諏訪湖一周マラソンだのとあちこちで募集されている(小学生は3〜5・)
のを知るやじっとしていられなくなりました(それにしてもマラソンだけでもど
うしてここはこんなに多いの?)。そこでいちばん近場の穂高町で開かれた安曇
野マラソン(これは地元の子が多かった)に参加したら111人中3位。メダルを首
にかけてもらい、景品までもらってニッコニコ。「母さん、これオリンピックで
もらう銅メダルと同じ銅メダルやろ?」(・・んなアホな、てなことは言っては
いけないと思いつつ私は根が正直なので顔にすぐ出る)。
ドッヂボール大会はNTT杯で中信地区の参加55チームの中でのベスト4に一人の差
で負けて涙をぬぐった堀金小学校の6年生。男の子たちが泣くのも可愛いもんねぇ
と(長野市である県大会に連れて行かなくてすんだと内心ホッとしながら)微笑
ましく眺めていたら、今度はJA杯やクロネコ杯でがんばるぞ、と言うのでギクッ
。先日あったJA杯では準優勝してしまって12月に県大会とのこと。信州は企業も
イロイロやるもんですねぇ。それにしてもと驚くのは、ドッヂボールって当てり
ゃあいいんでしょとばっかり思っていたら、結構いろいろ細かなルールがあるそ
うで、こういった試合の審判にもちゃんと資格のある人がやってるというからビ
ックリ。そういった有資格の審判員たちが、予選リーグから決勝トーナメントま
で丸一日中ボランティアで関わって下さっているのですから、頭が下がります。
子どもを育てるって親はもちろん大変だけれど、こういった地域の大人たちの存
在に励まされます。
こんな具合に大人にも子どもにも楽しむ機会があちこちにあると、興味と暇にま
かせていろいろ参加できるわけで、それは学校の成績以外のいろんな芽を育むき
っかけになるかもしれません。うちではずっと、子ども時代にこそ(流行り廃り
は当然あるものとして)いろいろな遊びに熱中して欲しくって、スポ少も習い事
もさせなかったため「その道のプロを目指して」なんてことにはずっと無縁でし
ょうが、信州のように地域の中にいろんな出会いのチャンスがあると、音楽にし
ろ美術やスポーツにしろ、大人になっても人生を楽しんでいける何かと出会える
のではないか、という気がします。
一方でそういったいろんな機会があれば、「出たがり小僧」たちは何にでも出た
がるし、やりたがるもの。そういう時に適度にブレーキをかける大人の存在も重
要だと思います。今回のドッヂボールは6年生男子の有志がクラスを超えて勝手に
集まって先生に監督を頼んでいるチームなのですが、JA杯での県大会出場に気を
よくしてクロネコ杯も○○杯もとヤル気満々の子どもたちに、先生監督は待った
をかけました。大切に考えたい理由として「入ってきたいと言えずに引っ込んで
しまっている子供の気持ちを考えると、これ以上学年の中で一部の子供たちだけ
で盛り上がった状態で卒業間近の3学期半ばを過ごすのは良くないと考える」とい
うのです。こういった、先生自身も迷いながらの提案を「ドッヂボール大会に参
加する皆さんへ」というお便りを手に親子で話し合い、その相談した結果を持ち
寄ってまた子どもたちが話し合います。こういったひとつひとつの話し合いが貴
重だと感じます。

さて、前回お話した小学校での学習着としての体操服着用については、こちらで
は何事も「絶対こうでなきゃ」ということがない学校の雰囲気があるので、子ど
も自身の働きかけで「いいじゃん」ということになっています。それでも、私は
春にあったPTA総会で「PTAでも考えてほしい」と提案しました。その時に続けて
発言してくれた人がいました。松本から転校してきたばかりの方で「前の学校で
も同じような問題提起があって、検討の結果体操服着用は自由になったけれど、
何の問題もなかった」という内容でした。私はこれでも目立った発言をするとど
う思われるかなぁと一応は心配してますから、こんな発言は本当にうれしかった
。その平良さんという方が、6月の小渕さんの内閣・自民党合同葬儀の際に、小学
校の担任の先生や校長先生に宛てて次のような手紙を書かれたそうです。ご本人
の了解を得て、ここにご紹介します。

拝啓
若葉の美しい季節となりました。毎日こどもたちがお世話になっており本当にあ
りがとうございます。
さて、筆をとりましたのは、実は本日行われます小渕前首相の葬儀に関する‘一
斉黙祷’の件についてであります。新聞にて「文部省通知」が教育委員会を通じ
て各校に伝えられると知り、私は大変奇異に感じました。私には疑問が二点ある
のです。
第一点
かつて首相という役職にあった人であったにせよ、我々と平等かつ対等であるべ
き一国家公務員のために、全国民に黙祷の儀礼が要求されてきたという事は、私
の人生の中では初めての経験だからです。何故、今、急にそんなことが行われる
ことになったのか、納得できる説明をもらっていないのです。・・・それが一点 。
もう一点は、あの小渕さんが成立させた「ガイドライン法」に対しての怒りと悲
しみが私にはあるのです。私は沖縄の出身なのです。戦後50年余、私のふるさと
沖縄は、米軍基地との共存において、もう充分に苦しみ抜いてきました。米軍基
地が一坪も存在しない、ここ信州にお住まいの先生方には想像なさりにくい事か
もしれませんが、私の生まれ育った沖縄本島は、その面積の20パーセント、つま
り五分の一が基地なのです。五歩あるけば一歩はアメリカ軍の基地という事です
。そこには世界最強の野戦部隊をはじめとする数万人の兵士が常駐しています。
私たちは50年以上、あの兵士たちにおびえ、おどかされ、殺され、強姦されてき
ました(私の小学生時代には、各学年に一人や二人は混血の生徒がいたものです
。我家でも、米兵が沖縄の女性に産ませた子を里子として引きとり、私は兄弟と
して一緒に育ちました)。
そんなアメリカ軍のために、アメリカ軍が戦争を行う時には官民挙げてバックア
ップせよというのが「ガイドライン法」です。この上、沖縄の人間に犠牲と戦争
への協力を強制していくという法律は、人間の道として許されることなのでしょ
うか・・・。
‘沖縄県民は生きながらにして死亡台帳に名前が載っている’とは当地では有名
な言葉です。
堀金小学校に通う私の息子たちの祖父母の住む沖縄を、もうこれ以上苦しめない
で欲しいのです。我がふるさとを、死と隣り合わせの島にした法律を作った小渕
さんを、私はゆるすことは決してできないのです。
そのような訳で、今日は子どもたちをお昼で帰らせます(妻が迎えに参ります)
。そして、子らと平和について一緒に考える日にしたいと思います。
よろしくお願い致します。                        
敬具
6月8日                         父 平良 暁生

たった一人でもやれることはある。平良さんの手紙を見せてもらった私は本当に
励まされました。今さら何を言ったって、とあきらめている私たち大人自身を変
えていきたい。

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