あんまリ難しく考えたら 長続きしませんよ。
気楽に燻せばいいんです

ウッディライフ  NO78 山と渓谷 掲載

臼井健二さん(49歳)は長野県安曇野で「舎爐夢(シャロム)ヒュッテ」という宿を営んでいる。この建物は、仲間の力を借りて3年がかりで建てたもの。

」R大糸線潟高駅から車て10分ほど行った林の中に建つ舎爐夢ヒュッテ。手前の立派な小屋はヤギの家だ。アヒルの池もある 根っからの山好きで、山小屋で5年ほど働いた経験を持つ臼井さん。生まれ故郷の安曇野で、自分流の人生を謳歌している


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吹き抜けの談話室。大きなスピーカーもお手製だ。また、この部屋にも手造りの暖炉がある
でき上がった燻製を容器に並べる臼井さん.昔は肉類の燻製も作ったが、今は菜食中心の食生活なので、魚だけを燻製にする

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落ち着いた雰囲気の客室。-泊2食付きで9000円だ

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奮闘の様子は、本誌の創刊号、2号でレポートしたので、ご記憶の方もいることだろう。臼井さんが15年ほど前、舎爐夢ヒュッテのダイニングに造った暖炉は、いわば究極の多機能型。ここまで凝ったものは、たぶん日本に2つとないだろう。

燻製も作れる八面六臂のマルチ暖炉
床暖房や燻製作りもこなす多機能型の暖炉。火室内には折り畳み式の焼網があり、魚も焼ける。煙道から魚の焼いた煙が廃棄され室内がにおうこともない。煙突横の棚でパン種の発酵も可能。何とも素晴らしい

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基本構造はレンガ、耐火レンガを組み合わせて造ったかまどに、6o厚の鉄板をかぶせてふたをしたもの。しかし、通常の輻射熱による暖房だけでなく、調理、パン焼き、床暖房もできるし、燻製作りまでこなしてしまうのだ。とても素人の手によるものとは思えない。さて、この暖炉のスモーカーとしての機能を見てみよう。煙道は2系統あり、一方は火室のすぐ上にあるカマボコ型のスモーカーにつながっている。

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当初はここに床暖房用の不凍液タンクがあったが、後にそれを壊し、熱燻用の燻製箱に造り替えた。もう一方の煙道は、火室の横にあるレンガ造りのペチカヘと通じている。これは、レンガが煙の熱を吸収し、じんわりと長時間にわたって室内に熱を放出するという優れた暖房システムだ。

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鉄筋を結束する針金で魚をつるす
スモーカーに魚をつるすには、鉄筋を結束する針金で魚をつるす細い針金が便利。市販のフックより安価だし、魚の身が熱でやわらかくなっても、エラを通しているので、ちぎれて落ちることがない。エラに針金をとす際、針金を密着させないのがコツ。ぴったりくっつけると、外すときに身が一緒にはがれてしまうのだ。


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2つの排煙経路維崎はダンパーで切り替え可能
この暖炉には2つの煙道におのおのダンパーがあり、開閉して排煙経路を選択できる。(両方同時に開けることも可能)」

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さらに、熱を奪われて温度が下がった煙は、ペチカの上にあるスモーカーへと導かれる。こちらは冷燻を造るのに最適だ。「以前から、薪を焚いて暖房した時に煙突から逃げる煙や熱がもったいないと思っていました。それで、松本技術専門校で鉄工を3ヵ月学び、こいつを造ったんです」さらりというが、なかなかできることではない。暖炉造りのために入学する行動力や加工技術の確かさだけでなく、この仕組みを考えついた発想の柔軟さにも驚いてしまう。チップではな<薪を燃やして燻製を作る舎爐夢ヒュッテでは、3日に1回くらいの割合でゲストに燻製料理を出している。

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イワナの燻製。口に入れると、魚のうまみと煙の香りが拡がる。無造作に作っていても、長年の経験で失敗することはない

もちろん、暖炉スモーカーで作ったものだ。熱燻が一番うまい、というのが臼井さんの持論。だが、ジューシーなスモークサーモンの冷燻も絶品だ。ちなみに、やわらかいスモークサーモンは、冷凍するとうまくスライスできるという。この暖炉スモーカー、一般的なスモーカーと違って、燻煙材はチップではなく、豪快に薪をそのまま使っているのが面白い。

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火おこしには昔ながらの火吹き竹を使う。煙に目を細めながら、息をを吹き込む姿が、実にカッコイイ。男はこうでなくっちゃ


「薪をチップにするのは面倒くさいじゃないですか(笑)。味だって、薪だろうとチップだろうと、特に差はないですね。燻製なんてあんまり難しくこだわっていると何もできないし、長く続かないですよ。スモークサーモンなんて、3枚におろして冷蔵庫に入れておくのが風乾の代わり。要は乾かしてから煙の中につるせばいいんです」

冷燻用のスモーカーはサケが入る大きさにした
ペチカの上に設置された冷燻用のスモーカー。サケの3枚おろしを寝かせて置けるよう、大きめに作ってある。とことん利用された煙は、最終的に左上の穴から屋外に拝出される

灰受けは引き出し式で焚いている最中も使える
火室の下にある、引き出し式の灰受け皿。焚いている時でも灰の始末がでさるのて便利だ。コイルのようなものは、吸気用ダンパーの取っ手。
これを押したり引いたりして吸気量を調節する

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燻煙時間は2時間ほど。一度火をつけたらほったらかしておき、その間は別のことをする。決してでららめに作っているわけではないが、なかなか多忙なのだ。忙し<ても充実した自給自足の暮らし臼井さん一家は「自然のリズムに合った自給自足の暮らし」をモットーに生活している。マクロビオテック(玄米菜食を中心とした食事法)もその手段の一つだ。無農薬で野菜を育て、天然酵母パンや豆腐マヨネーズ、ジャムなども作っている。

 

すぐ近くにある2反歩(600坪)の畑で野菜を育て、家族3人はもちろん、ゲストに出す分まで賄っている。生活している土地から取れる旬の野菜は、おいしいだけでなく体にもいいのだそう

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カマボコ型のスモーカーは熱い煙が流れ込むので、熱燻ができる。また、この部分では、燻製以外にパンを焼くことも可能。缶に天然酵母パンの種を入れ、中にセットするだけでOKだ


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庭で飼っているヤギ。臼井さんいわく「自動草刈り機」なのだとか


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また、毎朝7時からヨーガ教室も開催するから、暇なわけがない。忙しいだけでは自分を見失ってしまうから、毎年冬の3ヵ月間は休業し、好きなことに集中。しかし、ふだんの生活が苦痛に満ちた作業で埋まっているわけではない。

「今の世の中は、効率とか便利さの陰に隠れている問題を見ずに突っ走ってきました。その矛盾を考える意味でも、自然に帰って、地に足がついた暮らしをしたい。農作業も建築も燻製も、生活すべてが学びの場であり、過程の喜びに満ちています。その辺のことを考えつつ、家族仲良く暮らしていければいいですね」

「シャロム」はヘブライ語で「平和」という意味。
自然のリズムで暮らす大切さを知ってほしいと願いながら、今日も臼井さんはゲストを迎えている。

舎爐夢(シャロム)ヒュッテの燻製

煙の力で素晴らしい香りと味、やわらかな色が付き、さらに保存までできてしまいます。シャロムでは手製の暖炉の上に燻製室を作ってあるので、薪を燃やすと同時に燻製もでき、大変便利です。冬はついでに部屋も暖まり、一石二鳥です。

岩魚のスモーク

岩魚 15本  塩 1カップ  水1リッター ワイン 2分の1カップ タイム セージ こしょう

1.塩水をつくり、よく洗った魚を入れ20時間ほどつける。
2.塩水をすて 水の中に1時間入れ、軽く塩抜きして、塩を全体になじませる。
3.燻製室に吊し、2〜3時間 下で弱く火を焚く

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スモークサーモン

1.新巻鮭を3枚におろし、薄い塩水につけて、2時間塩抜きをする。
2.塩抜きがすんだら15時間ぐらい乾かす。
3.低温の煙を6時間かける。

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