3章「科学する心を育てる」工夫(環境)

3.豊かな自然環境(野外保育における「科学する心」とは)
野外保育 森の子 (長野県安曇野市)

<園の特徴>
特別な園舎を持たず、3〜5歳児の22名が過ごせるスペースを基地にして一年を通して保育時間のほとんどを野外(林)で過ごしている。保育者と保護者が運営を話し合い、生活や遊びを展開している。

1.野外保育 森の子における「科学する心」とは

  1. 自然の中で遊ぶことによって大いに感性をみがく
  2. 気付く(不思議、なぜ、面白い、きれい・・・)
  3. 様々な感覚を使って観察する(よく観、聴き、においを嗅ぎ、危険がなければ触ったり味を確かめたりする)
  4. 自然の仕組みを理解する(自然の循環、あらゆる生き物の自然界における役割を学ぶ)
  5. 自然体験から考える(人間も自然の一部であることを感じ、自然の恵みに感謝する気持ちを育てる)
  6. 創造へと発展させる(本物に触れることの素晴らしさを子どもたちはしっかり受け止める)

2.自分たちを取り巻く豊かな自然環境に目や耳を傾ける力を身につけ、「科学する心」を育てるために

  1. 四季を通し多くの時間を野外で過ごす(自然をごく身近なものとし様々な発見のチャンスを増やす)
  2. 自然は未知の宝庫であり、林の中にある全てのものが科学する心を育てる教材であると捉える
  3. 科学する心を育てる土壌となる豊かな感性を普段の保育の中で磨く(自然の中で感性と想像力を磨く)
  4. 一人の子どもの発見を大切にし、共感し、他の子どもたちとも共有していく
  5. 状況に応じ、保育者が自然の不思議に気付かせるきっかけを作る
  6. 様々な感覚を使って観察する(耳を澄ます時間や手で触らせる時間を設けて、観察眼を持たせる)
  7. 自然の仕組みを学ぶ(発見や観察を深め自然の循環やあらゆる生き物の自然界における役割りを学ぶ)
  8. 自然の恵みに感謝する気持ちを育んでいく

3.活動事例

春(季節)を感じる(4月下旬)

  • 林の周りの様々な花や草を見る。
  • 日差しが暖かくなり春の心地よさを味わう・春の寒暖の差の大きさを体で学ぶ。
  • スイコ(スイバ)の酸っぱい味、ヒメオドリコソウ、ホトケノザの甘さなど花の蜜を楽しむ。
  • 異年齢集団の中で素朴な味や遊び方、楽しみ方が受け継がれる。
  • 楽しんだのは、どの草でどこにあったかを観察し、自分でその草を探す。
  • 毒のあるものもあるので、何でも口に入れてはいけないことを知る。

根っこを掘る

  • 部分的に地面の上に出ているケヤキの根っこに興味をもち探す・じっくり見る。
  • 木の周りの草や草の根に興味をもち見る。
  • 掘って触ってみる。
  • 太い、細い、太いのが真ん中にある、細い根がたくさんあるなど気付く。
  • 躓きやすい切り株に気付き、掘り起こすことに挑戦する。
  • セミやキマワリの幼虫を見つけ、切り株の中も虫たちのすみかになっていることに気付く。
  • 切り株を掘り起こすことで、真ん中の非常に太い根っこが真下に伸び、その次に四方に太い根っこが伸びていることに気付く。太さに驚く。根っこがいくつにも分かれていて木を支えていたことにも気付く。
  • スコップを変えたりのこぎりを使ったりして作業の大変さを味わい、掘り起こせた達成感を味わう。
  • 実際に土の中からセミの幼虫を見つけることで、5歳児は今までの経験から知っているセミの知識を、小さい子たちにも伝える。3〜4歳児も本による知識だけでなく実際に見つけることで生きた知識になる。

集める・探す

  • よもぎ団子づくりのために、美味しい団子ができる葉を教わり、よもぎ採りをする。
  • 探し物ゲームをし、ハナニガナの花、桜の葉っぱ、よもぎの葉っぱ、タンポポの葉っぱを探す。
  • 色、形など見つけたものと、保育者のものを比べる。同じことや違いに気付く。
  • よく知っていた「よもぎの葉」は間違えないで見つけることができる。
  • 「ゲーム」という遊びの中で楽しみながら、観察眼を養うことができる。
  • 春は花摘み、夏はオトシブミやセミの抜け殻、リスがかじった後の松ぼっくり、秋はどんぐり、くるみ、くり、きのこ、様々な木の実など、冬は動物の足跡、糞探しなど、四季折々の自然に興味をもち、変化やその時期を象徴しているものを感じて集める。
  • 自分なりにこだわって集めることで、比べたり同じものを集めたり分類したりすることが自然に行われ、特徴や違いに気付く。観察眼を養うことができる。
  • 宝物やお土産にする、製作に使う、食べるなど、遊びや生活の中で見つけたものを大切にする。

自然の中で命を感じる

  • セミの羽化を見て「背中がわれたよ」「ひっくり返ったよ」「緑色だ」「羽が伸びてきたよ」「殻から出てきたよ」「羽が透明になってきた」と子どもたちは一刻一刻の変化に気付き、感動する。
  • 地面の穴にセミの幼虫を見つけ、「セミの幼虫がいる」「羽化するのかな」「目が黒いよ」と思いをめぐらす。
  • 羽化に失敗して殻ごと地面に落ちる様子を見て、どうしたらいいか悩んだり心配したりする。
  • 7年も土の中にいたということを知る。それでも羽化できないセミの命を感じ、心を動かす。
  • 死骸や弱っている幼虫をアリが食べるのを見て、死んだセミにも思いを馳せ、生命のはかなさ、自然の厳しさを感じ、死んでいった命を糧にするものたちの存在にも気付きながら、自然の循環を学ぶ。
  • 耳を澄まして自然の音を感じる。セミの声の違いに気付く。

自然の中で生活する

  • 雨の日も野外で過ごし、雨をじかに感じたり、雨によって身支度や雨よけなどの必要や違いを学んだり、雨の様子をうかがうなど天候の変化には敏感になったりする。
  • 焚き火をすることで、調理をしたり虫除けになったりすることを知り、火を身近に感じたり、火の怖さや安全な扱い方、火の性質を学ぶ。
  • 屋外トイレにコンポストトイレを使用して、落ち葉などで匂いがなくなるなどの不思議さを感じ、協力してトイレ掃除をしたり、畑に運んだものが堆肥となって土となるのを見たりする。
  • 畑作業で作物を育て、野外料理でその作物を食べることを通して、持続可能な農的くらしを、身をもって学ぶ。
● ポ イ ン ト ●
 「野外保育」という園の特徴的環境を活かした取り組みを、主題を通して検討し見直すことで、子どもたちの体験している具体的な内容や成果を捉えることに結びついています。自然の中で「どのように科学する心が育まれるのか」という実態を把握するだけでなく、「どのように生活するのか」「どのような遊びが生まれ豊かな体験になるのか」という保育者としての意図をもち探究することで、着実に子どもたちの生活に反映しています。
 また、異年齢で生活や活動をすることで、子どもたちの姿からその経験の違いや成長を捉えることができます。そして、子どもたち自身もそのことが分かり、自分たちで教えたり学んだり受け継いだりするという姿に、「科学する心」が育まれていることが表れています。