山間集落NPO法人『篠原の里』の自立交流アクション報告

 

 糸長浩司(日本大学教授/パーマカルチャー・センター・ジャパン)

 

 パーマカルチャー・センター・ジャパン(PCCJ)は、1996年に神奈川県藤野町篠原集落の廃屋、荒廃農地を借用して、日本で最初のパーマカルチャー運動の集団的活動を始めた。本報告は、その人口230名ほどの篠原集落での集落住民による地域自立、環境共生活動に関する報告である。

篠原は、神奈川県の水源地域で最北の藤野町南部に位置する中山間地域である。藤野町の「芸術のまちづくり」運動の成果として、篠原にも多くの芸術家が移住し、新旧住民による協働型地域づくりが活発に行われてきた。PCCJの活動も、事務局長の設楽さんが定住し、そんな新しい活動の一環を担ってきている。集落一体となって、天然記念物の里山の蝶であるギフチョウの保全活動、敬老の日の集い、子どもの夕べ、蛍観賞、「ぐるっとお散歩篠原展」と称して芸術家のアトリエ見学、農家の屋敷見学、EM菌農地見学、PCCJ農地見学等オープン・ガーデン型の集落芸術展の開催、PCCJの横にある廻舞台のある大石神社での文楽等の人形浄瑠璃の公演が集落の自主活動として実施されてきた。

そんな中、集落の中心的施設であった篠原小学校が20033月に廃校となり、この廃校を活用した地区の新たな活動が模索された。集落では廃校が確定した時点で、「篠原の里」設置準備委員会を2002年に設置し対応を検討してきた。里山の伝統や文化・環境を守りながら、都市住民との体験交流を深め、住民の生きがいのある魅力的な地域を創造するために、「篠原の里」づくりが構想された。

町の企画課と相談して、地元住民団体が受託者となれる国交省の「多様な主体の参加と連携による活力ある地域づくりモデル事業」(2003年度)の計画づくりの受託事業を「篠原地区振興協議会」が受託し、筆者の研究室(建築・地域共生デザイン研究室)がファシリテーター役となって、「篠原の里」の計画づくり、および今まで実施してきた交流イベントの継続と評価、新たな環境整備や交流イベントの開発、廃校活用計画づくりを2003年度に実施した。集落の資源マップづくり、集落全戸の屋号調査と屋号看板設置、「篠原の里」の看板設置(これらは地元の大工さんと芸術家の共作である)、廃校を「篠原の里」センターとして、地区住民の憩いの場、育児支援、都市農村交流事業拠点施設とする改造計画プラン作成、集落内での炭窯づくりの体験WS等を実施した。

2003年度は廃校計画づくりを進めると同時に、改造費の資金獲得のために、神奈川県での水源地域の活性化のための「交流の里づくり」事業に申請し受理され、2004年度はその改造資金(県および町からの資金)により、廃校を改造し「篠原の里」の拠点施設が竣工した。その運営は、先の「篠原の里」設置準備委員会の加藤正樹さんらが中心となって、NPO法人「篠原の里」を設立し、集落での自主的な運営が20055月より開始された。施設運営のスタッフの中には都市からの移住民達もいる。施設は、パブ等の食堂、子ども育児(児童保育園、放課後の小学生の溜まり場)、都市住民の体験交流のための研修、宿泊サービス等の機能を果たし、また、集落の多様な人達の溜まり場的な機能を果たしつつある。NPO法人の事業の将来希望としては、交通サービスや老人福祉事業等も話題として挙がってきており、自分達の暮らしは自分達で支え合う、そのための自立的で開放・交流的な営みが多様な主体の参画で起きている貴重な集落である。

「篠原の里」施設は、自然環境との共生をテーマとして、土間空間、土の壁、地元の伐採した樹木の木材活用(食堂のテーブル、棚、宿泊室用の床板)、微生物による自己完結型の完全汚水浄化システム、ペレットストーブの設置等の建築的工夫が施されている。また、2005年度は篠原の里の芸術家高橋政行さん、石窯作家須藤章さん、日大糸長研究室の協働のWSで、厨房前に本格的なパン窯づくりを実施し、夏の子ども達の体験交流イベントで活用されている。2005年度8月、全国のパーマカルチャーリスト達の集い「第2回パーマカルチャー・ギャザリング」が、この「篠原の里」施設を会場にして70人ほど集まって実施できたことは、PCCJ運動の10年間のまとめとしても意義深いことであった。

篠原の里の試みは、まだ明確な形でのエコビレッジにはなっていないが、自然や農的な暮らしの体験交流、学びをテーマとした、体験学習型エコビレッジの方向性で動き始めてきているといえる。13万5千の集落コミュニティが残っている日本は、世界的に貴重な農的暮らし環境が維持されてきた国である。その集落環境の伝統的な良さの継承と再生を、地元住民と都市住民の協働で実施すること、そのために、パーマカルチャーの倫理、論理、デザイン手法をどう日本的に展開していくのかが大きく問われ、期待されている。

★ 篠原の里HP http://www.ops.dti.ne.jp//shinoba/index.html

 

 

 

      写真 篠原の里の看板                

 

  写真 全戸に付いた屋号看板

  

写真 人形浄瑠璃上演風景 

 

 

写真 篠原展での旧廃校舎での自然エネルギー展示

 

写真 篠原展での集落住民による野外演奏会

 

写真 篠原の里づくりでの炭焼き窯づくりWS

 

写真 改築完成した「篠原の里」センター施設

 

写真 地元の材で地元デザイナーと住民で作った

パブのテーブルで、完成祝いで一杯

 

写真 教室を改造した宿泊室

 

 

 

 

写真 WSで作ったぱん窯、オーブン付き。

    鉄の扉は、地元の芸術家高橋政行さんの作品

 

 

写真 8月6日〜7日のパーマカルチャー・ギャザリングの集い

 

 

 

 

 

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糸長浩司